ストーリー

「まさか、こんなことになるなんて…」

植物の精――翠凛は、なす術もなく、森に埋もれてしまった町を見つめた。それから、実体化した自分の体を見つめた。本来、彼の姿は幽霊のように、誰にも見えず、触れられないもののはずなのに。
全ての原因は力の暴走だった。精霊である翠凛の力が別の意思を持って暴走し、深夜の町は数時間もかからずに森の中となったのだ。暴走した力をもう一度服従させ、取り戻せるのは、所有者である自分だけだと翠凛は知っていた。行かなくては。彼が決意して、森へ足を踏み出そうとした時、誰かの足音が耳に届いた。

「あ、あれ…?道、間違えかな…私…」

町を見て、そんな間の抜けた声を出した少女。この声は、この町に住む女の子――紗希の声だ。きっと何か用事があって、町を出ていたので難を逃れたのだろう。
翠凛は、植物の精というには俗っぽい話だが、彼女のことが昔から気になっていた。実体化している今なら、彼女と話ができる。翠凛は思わず一人、笑みを浮かべた。

――これは何かの運命かもしれない。

それは直感だった。振り返り、紗希の元へ向かう。

「おや、お嬢さん。ここで何をしているの?」

その言葉に、紗希が翠凛を見た。目が合う。意思の強そうな瞳は、突然の来訪者に驚いて丸く見開かれている。翠凛は彼女に向けて、柔らかに微笑んだ。
ここから一夜の冒険が始まった。