あらすじ
灑国(さいこく)の武官、夢見月静(ゆめみづき しずか)は
ある朝突然皇帝からの呼付けを受けた。
皇帝は、わずか齢十一の少女、灑筝姫(さい そうき)。
筝姫が皇帝になる前、静が世話係をしていたこともあり、
今では主と従者という関係ではあるものの、
かつては姉妹のような仲でもあった。
前皇帝の死後、齢わずか九つにして皇帝の座に就いた筝姫。
聡明で、職務を全うしていたものの、新たな皇帝に不満を持ち、侮り、王座を狙うものも少なくはなかった。
――ただ筝姫が幼いという理由だけで。
そして、昨今の国の情勢は平穏ではなかった。
「静、旅に出よ」
突然の皇帝の命令。
行き先を記したであろう、筝姫直筆の手記が手渡された。
「地図を添えておいた。三日ぐらいかかるからぜったいに三日かけて行け。」
皇帝の命令通り、外界に歩み出た静。
雪解けをとうに終えたこの時分、下生えを薙ぐ風は身を震わせるものではなく、
微かに香を纏って心地よい。
「もうすぐ春、か・・・。」
静は軽く伸びをし、歩を進め始める。
――きっと悪い旅にはならないだろう。
なぜか、そんな気がしていた。